燃料投下

 昨日の授業では一般選抜に向かう中3生たちに燃料を投下。まあ早めに1回は言っておきたいことがあると思っていたので、ちょうどよいタイミングだったかもしれない。もちろん、虎視眈々とその機会を狙っていたというわけではないけれど。今年は彼らの真面目さもあって比較的平穏に進めてきたけど、ここはネジを締め直す場面。厳しいことを言っているのは承知の上。これは待ったなしの勝負だ。真剣勝負の最中に楽観も悲観もしていられないし、今この瞬間においては達観も諦観も無用だ。どれだけ熱くなれるか、それだけのことだ。今日からの彼らの姿に大いに期待しよう。
 
 
 こういうとき、何だかんだ言いながら前職の経験は生きているなあと思う。実際、あの期間で自分は実にいろんな経験をさせてもらった。昨日彼らに喋った話の中には、前職における経験も少し含まれている。喋り始めると、それが十数年前のことであるにも関わらず、実に鮮やかに思い出せるのは不思議なものだ。それだけ自分も若く、記憶力がよかったということかもしれない。
 
 
 それで思い出したが、私は別に前職場に恨みつらみはないし、それどころか当時の上司・同僚・後輩の皆さんには感謝している(向こうがどう思っているか、それは知らない(^_^;))。昨日こんな広告を出したから、その言い訳をしているというわけではない(苦笑)。今、こうして進む道が違うのは、価値観の違い、というか生き様の違いということに尽きる。そしてその相違は抗うことも調和させることもごまかすこともできない、まさに必然だった。しかし前職がなければ、今の私も、そしてこの塾もなかった(まあ前職がなければ、そもそも塾をやっていたかどうかさえ分からないという意味も含めてのことだけど)。もし前職を経ずに塾をやることがあったら、何ら芯を持たない、どうしようもない塾になっていただろうなと思う。当然ながら15年も続くことはなく、3年も持たずに消えていたかもしれない。そもそも、大人になるまで一度も「塾」というものに通ったことがない自分には、塾がどんなものなのか、全く分からなかったからというのはもちろんあるが、じゃあ余所で修行していたらどうだっただろうかというと、やはりこの塾は成立し得なかっただろうと思う。今のことは全く知らないが、当時のあそこには、自分にはないものをたくさん吸収でき、あるいは自分が考えもしなければ想像もしなかったような世界を知り得る(いい意味もそうでない意味も含めて)バラエティに富んだ人材が揃っていた。そして、ストレートしか投げられない自分でも勤められる、企業体の塾にしては珍しい(だろうと思う)社風があった。もっとも、だからといって直球ばかり全力で思いっきり投げ続けたものだから(以下略)
 会社を辞めて自分で塾をやるなんて人は世の中に掃いて捨てるほどいるだろうが、こうやって前職のことについてわだかまりもなく書ける自分は、(幸せかどうかは分からないが)少なくとも不幸ではないだろうと思う。逆に退社した後、元いた職場へのルサンチマン的発想を燃料にして、あるいは梃子にして仕事をしているような人を見ると、哀れなものだなと(最近特に)感じる。
 塾を開き、拡大を志向する野心を持った起業家は、この不況と少子化の中でも途絶えることなくどんどん出てきている。むしろ、牧歌的だった一昔、二昔前と比べると、ビジネスという面を強調してこの業界に参入するスマートな人が増えた印象だ。それがいいのか悪いのか、私には分からない。いずれにしろ、この塾は最初からそういうことを企図して作られなかった。大きな塾、市場を制覇する塾を目指すことで自分の野心を満たそうとするのであれば、前職に留まっていたほうがずっと近道だったろうし、たぶんそうしていたであろう。あるいは「派手に儲けたい」ということが目的だったら、そもそもこの業界に入ることも居続けることもなかっただろう。そういうものがなかったから今があるし、自分にはそういう才覚、つまり経営をめぐる才覚は無いと自覚しているからこそ、こういう生き方をしてきた。その点においては一点の曇りもない。私はこれからも私の生き様に正直に生きつつ、少しでも世の中の人々を喜ばせ、何らかのお役に立つことで、このいのちを全うしたいと考えている。
 幸いにしてこれまでそれができてきた(と思う)のは、15年間の塾生・卒業生たちとその保護者の皆様方、さらには周辺の皆様の支持があってのことだ。世の中には、自分の思いを表現しようと事業を興してもうまく行かない人のほうが圧倒的に多いことを考えると、私は実に幸せに生きてきたと(ここでははっきり)断言できる。
 特に塾生たる子どもたちには本当に恵まれてきた。彼ら塾生たちがいたからこそ、私も存分に頑張れた。この塾が一番誇れるのは、何を置いても(むろん、私などでもなく)子どもたちや(卒業生の)元子どもたちであるというのは、外連味もなく本心からその通りなのである。開塾当初からそうだったし、15年経った今年だってそうだ。何でこうも人間的にすばらしい、いい子たちが集まってくれるのか、それは今もって分からないけれども、ともかくただ感謝するしかない。そしてその感謝の気持ちを、残り3週間の真剣勝負の中で形にする、それが私の今この瞬間の使命だと感じている。