2020年3月10日を終えて(1)

今年もこの日が来た。
昨日はやたら「普段通り」を強調していたが、それは裏を返せば特別な日だと考えれば考えるほど自分のほうが緊張してしまうということでもある。
塾生たちにはあれだけ「10時半に寝る、6時に起きる」と強調しておきながら、結局自分の就寝は遅くなってしまった。
 
 
朝6時50分、家を出る。
雨。
2年前は雨が降るか降らないか微妙な空模様での出発でいろいろな迷いがあったが、こうもはっきりと降ってくれれば、分かりやすくてよい。
覚悟を決めて出かけるだけだ。
行き先は・・・
倍率が確定してから東しかないと思っていたが、昨日まで迷いがあった。
今年、ウチの塾から最も多く受験するのは北高だ。
東高はそこまで多くない。
したがって北高に行くのも有りではないか。
だいぶん前、一人の塾生に「今年は倍率に関係なく北高に行く」と言った記憶もあったような、なかったような。
だが、寝る前には東と決めて床に入った。
やはり一番厳しい倍率のところに行くべきである。
北高は声かけができない。
今年はとにかく声をかけたかった。
 
車に乗り、自宅から南下。
ここ数年迷いの出る北高近くの交差点も、今年は迷いなく直進。
東高から少し離れたコインパーキングに車を入れたのは7時20分ぐらいだろうか。
幟を降ろし、100均の合羽を羽織り、傘を差す。
そこから大通りを歩き、南に折れるといつもの光景が目に入ってきた。
その前方に視線を集中させると、早い受験生(受検生)は私が到着する前から続々と門の中に吸い込まれている。
(以後、一般的な「受験生」と公式表記の「受検生」が混在しているかもしれないが、勢いに任せて書いているのでお許し願いたい)
はやる気持ちを抑えながら歩く。
ここまで歩く途中の風景が例年とは明らかに違った。
まず登校する小中学生を見ない。
そしてそれを見守る黄緑のジャンパーの高齢者も見ない。
世間が異常な状態にあることを否応なく認識させられる。 
 
7時半よりは前に到着した。
今年の中学校指定集合時刻は7時40分だったはず。
間に合っている…だろうか。
 
当然ながらそんな時刻には既に先客がいる。
大きな塾のみなさん。
2つか、3つか。
彼らが門の周辺に既に陣取っているので、私は門から少し離れた南側に立つ。
悪い場所ではない。
校地内に入った後、奥の体育館のほうに向かう生徒にも声をかけられる位置だ。
そもそも門前にいろんな塾が入り乱れると陣取りから統制がとれなくなって交通の妨げにもなりかねない。
特に今日は雨降りということもあり、おとなしく周辺にいようと思っていた。
ただ、もし生徒たちが北側から来ると拙い位置ではある。
近年は駐車場になっている南公園の方から歩いてくる生徒が多いので、南側でほぼ大丈夫なはずだが、北側からやってくる生徒もいないわけではない。
そうなると私に気づかないまま通過されかねない。
というわけで、時折北側の方に目をやり、また門をくぐって校地内を歩いて行く受検生たちをチェックし、捕捉漏れを防ぎながら待つ。
と、しばらくして一人目発見。
その少し前に彼のお母さんの車が東高の門前を素通りしていったので(駐車場のある南公園からまっすぐ北上してこられたのだろう)、しばらくしたら本人も来るだろうと思っていたら案の定だった。
友達(非塾生)と一緒に来たようだが引き留めて声をかける。
すると第二声が「○○さんが後ろに」という反応。
冷静すぎて逆に安心した。
そして彼のアドバイス通り、すぐ後ろからその○○さんがやって来た。
お母さんと一緒だった。
声をかける。
門の前まで付き添った彼女のお母さんが戻り道で私に再び声をかけてくださる。
本人が道が分からないかもしれないと思ってここまでついてきたとのこと。
本当は彼女の姉(在校生・元塾生)を連れてこようと思ったが、寝ていたので・・・と。
高校生も急な長期休暇に入っている。生活リズムの維持も課題だ。
そんな話を明るくされるお母様と比べ、私のほうが緊張し硬直していたかもしれない。
後で振り返ってそのときには気づかなかった自分の硬さに苦笑いする。
 
それにしても、今年は門前までの保護者の付添が例年になく多かったように思う。
去年は東高に来ていないので分からないが、一昨年はそこまで多くなかった気がする。
雨だからというのもあるかもしれないが、雨だからといっても傘を差して歩くだけだから付き添っても濡れないわけではない。
ひょっとすると自転車で来るはずだった受験生が急きょ車に切り替えたはいいものの、南公園から東高までの道が分からないorあの細く長い道を雨の中一人で歩いて行かせるのは不安だ→親がついていくというケースが多かったのだろうか。
来年どこに行くか分からないが、もし東高にまた行くことがあれば今年と比較してどうか確認したい。
これは個人的な備忘だ(というかそもそもこの記録自体が全部備忘録のようなものだが)
 
その後、一番声をかけたかった生徒にも会うことができた私のミッションはほぼ終了したのだが、それでさっさと帰らないのはいつものこと。
知らない受検生たちにも挨拶をしつつ、人の流れを観察する。
 
去年、北高の若い先生(?)を褒めたのだが、東高の若い先生(?)もなかなかだ。
ソフトに気配りのできた交通整理をされておられる。
南のほうで歩く列に膨らみができてきたとみるや、一人の若い男性の先生が、旗を持って移動して白線の上にすっと立ち、道路端を歩くように誘導。
いい立ち姿だ。私が画家なら絵を描きたいような光景だ(なお、絵の才能も写真の才能もゼロだ)
 
いつも書いているが、入試の朝の私はなんだかんだで東高にやってくることが多い。
北高は基本的に声をかけられない。
南高は応援するに最適な環境だがウチの塾から受ける生徒自体が少ない(累計でも東西南北商で一番少ないのが南だったりする)
西高には勤め人時代を含めて行ったことがない(から状況が分からずいつまで経っても行けないという)
商業は大昔、特色化選抜のときに一度行ったきりだ。
去年実に久しぶりに行くかもしれなかったがパスした話は去年の記事で書いている。
結果、東高になっている。
四半世紀近く前から(!)この門前を見てきたそんな自分からすると、今年の風景には隔世の感がある。
今日は雨の中、先生方(だと思う)は公式の集合時刻を迎えるそのときまできちんと外に立っておられた。
遅い中学校でも8時までには来いと指示しているはずなので、8時をまわると受検生はほとんど来なくなる。
そしてそのタイミングで塾関係者は引き上げるのが普通だ。
今年も8時過ぎには賑わっていた門前はがらんとしたのだった。
そんな8時を過ぎてやってくる生徒は「遅刻」した焦り気味の生徒(といっても本当の意味での、あるいは公式の遅刻ではないのだから落ち着いてほしいところだが)
それから他県・他地域からの受験や私立中から受験の生徒。
彼らには中学校指定の集合時刻などたぶんないため、当然ながら公式の集合時刻(8:20)にあわせて来るのだ。
遠い昔、明らかにそれと思われる子が無人の門前に立ち尽くしているのを「救った」記憶がある。
あの当時の集合時刻は8時半だった(特色化選抜よりもさらに前の遠い昔のことだ)。
その子は8時20分過ぎ(だったと思う)には着いたのだが、その時間にはもう応援の塾関係者ばかりでなく、交通整理の高校の先生たちまで引き上げてしまって(それはどうなんだ)、門の辺りは誰もいなかったのだ。私を除いて。
がらーんとした門前に立っているのは私だけ(厳密に言えば私も細い道路の反対側に立っていた)。
「今日、入試ですよね?」
心配そうな彼女の一言は今でも忘れない。
そりゃそうも言いたくなるだろう。誰もいないんだから。
実に静かな門前。
いや体育館のほうに受験生が行ってしまっている状況で、玄関や校舎のほうまでしーんとしている。
大学入試のように「入学者一般選抜学力検査」なんていう看板が門に立っているわけでもない。
私は彼女にこういった。
「はい、そうですよ。間に合っていますからね。奥に見える体育館のほうに歩いて行ってくださいね」
門の前で奥を指差しながら彼女を誘導した。
その子が合格したかどうかは知る由もないが、ちょっとした人助けができたエピソードとして大昔のことながら今でも記憶している。
ちなみにそのとき私がなぜそこにいたかと言えば、ウチの塾生が(非塾生・後で聞いたら他塾の生徒だったらしいと一緒に)「集合時刻」を間違え、8時半めがけて自転車でやってきたからである。
ちっとも来る様子がないので帰ろうにも帰れなかったのだ。
今となっては懐かしい思い出である。
今年もそういう(それらしき)子がいた。
が、あのときと違うのは、その時刻まで高校の先生方がちゃんと立っていたということだ。
私の出る幕はなかった。
彼らはきっと不安なく入場できただろう。
当たり前のことだが大事なことである。
 
私にはもう一つのミッションがあった。
東高は集合した受検生たちをまず体育館に入れる。
階段を上って入っていくその瞬間、道路のほうを見てもらえれば幟が見えるかもしれない。
ただ、今年は新型コロナウイルスの問題で体育館には全員を集合させないかもしれない。
そこだけが気になっていたが、遠目に体育館のほうに目をやると例年通り受検生たちが外の階段を上っていく姿が見えた。
一昨年は門前で会えなかった生徒が幟を見つけてくれたという話もあった。
それで、今年も私は幟を体育館のほうに向けてずっと見守ることにしたのである。
(なお、結果を書くとウチの塾から受験した生徒たちは全員気づいていなかったようだ。そうするとは言ってないのだから仕方がない。一昨年が奇跡だったということ。)
横を見ると、同じように体育館のほうを見つめる保護者の方?らしき姿がちらほら。
これは今まであまり見なかった光景かもしれない。
最終的に8:15ぐらいまでには全員が体育館に入ったようで階段から人影も消えたので、私はそれを見届けて退散することにした。
 
過去3年間と比べたら大満足の門前応援であった。
過去3年間は会えなかったり気づいてもらえなかったりした生徒がいたが、今年は全員捕捉できたのだ。
びしょ濡れになった幟は洗うことにしよう。
幟くらいでそこまでするかと思われそうだが、昨年の応援に使って以来、1年間室内で待機してきた幟だ。
来年の子たちには、またきれいな状態で掲げなければならない。
 
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