2020年3月10日を終えて(2)

例年通り、今年も「入試が終わったら塾に寄ってもいいですよ」と言ってある。
全員集合とは言っていない。
入試が終わって疲れた生徒たちに「来い」という気持ちには自分はなれないからだ。
実際、随分前の卒業生に入試後こちらから電話したら(来ない子には電話している。どうだったか、ちゃんと受けたか、不安にしていないか気になるからだ)、疲れ果てて家に帰ってすぐ寝てしまったという子もいた。
彼らにとっては緊張と解放と、本当に忙しい一日なのだ。
 
で、3年前はそれで1人だけ来なかったが、一昨年と昨年は全員が来た。
この第23期生は団結というかまとまりのある、まさにクラスタと呼ぶにふさわしい学年なので、来るならほぼ全員来るだろうし、来ないならやはりほぼ全員来ないだろうとは思っていた。
この点は一昨年に(雰囲気そのものはだいぶん違うが)似ているという気もする。
去年のことは去年書いたが、独立独歩共同体のような世代だった(が結局全員が来た)。
 
とりあえず、全員が来る想定で準備をする。
まずは買い物。
いつも買う近所の店ではなく、少し離れた店に車で。
4年前までは茶の一つも出さなかったが、3年前から何かしら出すことにしている。
これも毎年書いているが、ウチの塾は真面目なので普段塾で菓子やらジュースやら出すことは全くない。
真面目というか、古い人間なのかもしれないが、といって今後も変える予定はない。
しかし、今日だけは特別なのだった。
先ほど述べたように、疲れた体でわざわざ塾まで足を運んでくれる子たちである。
豪華料理でおもてなしをしたっていいくらいのものだ(がそこまでの予算も人手もない)。
 
今年、買い物にあたって気をつけたことは2点だった。
1)飲み物はペットボトルで配る。
去年まではでかいボトルを数種類何本か買って紙コップに注いでいたが、今年に限ってはそれをやめた。
2)菓子も個包装のものだけにする。
みんなでつまむような菓子は無しだ。
言うまでもなく、いずれも新型コロナウイルス対策である。
聞けば空港のラウンジなどでも個包装された食品しか出ていないとのこと。
それにならった対策である。
(出しているものの差についてはここでは敢えて書かない突っ込まない)
 
飲み物は例年の経験からお茶とオレンジジュースを多めに。
最初はファンタオレンジを手に取ったが、その横に蓋付き缶入りの別メーカーのオレンジジュースがあったのでそちらを選択。
需要はないかもと思いながら紅茶花伝とカルピスウォーターも少々かごに入れる。
菓子は甘いもの・・・といつものようにチョコパイなど。
甘いものばかりになったので目にとまったベビースターラーメン数袋も入れた。
私の個人的な興味・趣味のような気はしたが、黒豆せんべいとは違ってベビースターラーメンなら許容範囲だろう(何を気にしているのか分からないが)。
 
塾へ。
まず掃除から。
昨日までの連日の戦いの痕がいまだ生々しい教室をきれいにする。
いろんなプリントはすべてごみ箱行きである。
アルコールできれいに机その他も拭いた。
掃除機をかけ終わり、やれやれと椅子に腰掛けたぐらいのところで一人目が登場。
理科が難しかったという反応。
見ると確かに難しい感じだ。
それ以上に仰天したのは見事に「外している」こと…。
去年まで結構な的中率で悦に入っていたし、年によっては自分の「最後の一言」が入試でまさに問われたこともあって自分の能力を過信していたのだが、まさかの惨敗である。
こんなに外すなんて。
まあ、演習は何十回とやって来て、あまり偏りがないようにあたってきてはいたから、3日前にやった本番模擬演習の私の予想が外れたくらいで成績が大きく変わるはずもない子たちだと思う。が、それにしても惨敗は塾屋としては情けない。
と、同時に直前期の初期から出そうな問題を絞り込むような真似をしなくてよかったなと胸をなで下ろす。
入試では「ここが出る」だけでなく「ここは出ない」も禁物だと改めて感じたのだった。
一人目は小教室に通したが、その後続々と生徒が来たので中教室に移動。
注目の図形の最後の問題。
問題を持ってきた一人目の子の書いた痕跡を見ると筋のいい解き方をしていたように思われたので解けたのか聞いたら解けなかったと。
これは残念だった。
図形の最後の問題は難問路線をすっかり放棄したようで、去年に続いて「解ける子は解ける」水準になっている。
といって、苦手な子にはやはり難しいだろう。
当日突き進ませるか撤退させるか、一人ひとりに応じたアドバイスが必要だ。
4時をまわり、続々と集まってくる。
直接塾に寄ってくれた子もいれば、一度帰宅して体操服に着替えて(最後まで体操服が好きな世代だ)やって来た子もいる。
気がつくと一人を除いて全員が揃っていた。
例年だと、自分も彼らの輪の中のどこかしらに入って会話するのだが、今年の子たちは自分たちでそれぞれじゅうぶん盛り上がっているので、自分の出番は無さそうだなと事務室で静かにしつつ、答えで意見が割れている子たちには判定を下したりしながら過ごす。
 

5時も近くなり、今日はあまり長時間拘束するのもよくないからどうしようかと思って「○○君が来てないね」と彼らに振ってみると、「でも△△(下の名前)来るって言ってましたよ」という反応なので待ってみることにする。

果たしてその直後、彼は現れたのだった。
これで全員が揃った。
気がつくとみんな授業でも受けるかのようにお行儀良く座っているので「いやいや今日は自由にしていいのよ」と声をかける。
 
今年、高校を卒業した第20期生のときから、この会では写真を撮るのが恒例化している。
今日も写真を撮った。
去年までずっと「来年こそは家にあるややマシなカメラで」と思っていたのに、今年もまたカメラを忘れてしまった。
仕方がないので例年通りボロのカメラでの撮影だ。
このカメラ、数年前にビデオカメラを買うまでは授業の収録も担当していたという、立派に塾に貢献してきたカメラではあるのだが、いかんせん型が古い。一世代前ぐらいのスマホに画質が劣ってしまう。来年こそはカメラを忘れずに。ここに書いておく。来年の入試前には必ずこれを読み返そうな、自分。
さて、彼らの写真、こういう異常事態の中での受験だった記録をとっておこうと、マスク有りとマスク無しの2バージョンを提案し、そのように撮影する。
この特異な環境の中、彼らは本当によく頑張った。
 
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思えばこの学年は夏から大化けした。
夏までの彼らには明るい見通しが全く持てなかった。
ところが夏から彼らは変わった。
夏を終え、高校見学や実力テストの結果を見て志望校を「上げた」生徒は1人や2人ではない。
初めから北高を本気で志望していた生徒はそんなにいなかったように思うが、終わってみればこの学年最大勢力になっていた。
逆に「下げた」生徒は北高に限らず1人もいない。
そうかと思えば春から一貫して1校だけ志望校に書いてそれを貫き通し、夏頃までは遙か及ばない位置にいながら、秋から成績がぐんぐん伸びて志望校に成績が追いついてきた生徒もいる。
もちろん去年までにもそんな生徒たちはいたが、今年は雰囲気も含めて全体が塊になって上げ潮できたからすごい。
彼らはまさに1つのクラスタだったのだ。
 
閑話休題。 
さて、そろそろお開きにしようかな、という段階になって事務室にわらわらと生徒が入ってきて何を言い出すかと思ったら「先生は何歳ですか」という話。
塾の上の看板に「since1997」と書いてあるところから逆算して55歳!と言った生徒がいたが、それはさすがに酷すぎる話である。
別に特別な秘密事項でもないのだが(ご存じの親御さんも一部いらっしゃる)、今までもずっと言わなかったので今年ももったいぶって言わなかった。
 
そういえば、だいぶん昔の卒業生にこんな子がいた。
何かの弾みで「北高の『卒業生からの手紙』(当時あった卒業生の大学合格体験記のような冊子)に私が書いたものが載っている」という話をしたのを覚えていたその子は、北高に入学後「『卒業生からの手紙』のバックナンバーを見せてほしい」と高校の先生に言いに行ったらしい。結局見せてもらえなかったらしいが(うっかり探し当てられ、大学入学後に抱えていた複雑な心境のまま殴り書きしたその文章を読まれるのは恥ずかしいこときわまりないのでそれでよかった)、迂闊なことは言えないなと思ったものだった。
 
6時頃、解散。
菓子はきれいになくなっていた。
もう少し買っておけばよかったかな。
静かになった塾で、改めて今日の問題を見る。
 
理科と社会はやや難しくなったように思う。
特に理科はずっと「超基本を押さえる」路線で来たが、その路線とは決別したのかもしれない。
過去問を中心に学習してきた受検生はきっとびっくりしただろう。
兆候はあった。
ここ数年、ちょこちょこと以前にはなかった「ちょっとだけ難しい問題」が出るようになってはいた。
だから今年は以前よりは難しくなるかもという話は彼らにもどこかでしていたように思う。
それにしてもドラスティックだった。
入試理科に対する考え方を改めた方がよさそうだ。
といって、全国レベルからすればこれで普通という気もする。
今までが易しすぎたと言われればそれまでの話でもある。
  
国数英は彼らからも概して難しかったという反応はなかった。
数学は出題パターンもこちらの想定通り、特に変化球を投げられることもなくてよかった。
時折見られるクセのある問題はなく、素直な出題だ。
得意な子はまあまあできただろうし、苦手な子は取捨選択さえ間違えなければそこそことれる。
ただ、英語ではリスニングのスピードが塾でやった演習よりも速かったという指摘は受けた。
彼らはそれでもまあできたようだが、改善が必要だ。
これももちろん私個人の備忘である。
 
家に帰り、テレビの解答速報の録画を見る。
彼らの予想も去年より難しくなったというものだった。
私も総論ではそれに同意する。
去年が320点という異常な平均だったから下がるというのも当然か。
ただ、合計298点という予想平均は思い切った数字だなと思った。
昨年が異常に高かったとはいえ、前年比-22点という予想は簡単には出せない。
が、去年は小幅の上げ予想をして結果は大幅上昇となり何だか外したような感じになったので、大胆に踏み込んだのかもしれない。
単純に各教科の予想平均を積み重ねたらそうなったというだけかもしれないが。
でも、これくらいになる可能性はあるとは思っている。
入試の平均点の推移についてはこちらのページに載せているが、たとえば平成29年(つまり今年高校を卒業した学年だ)の平均は305点だが、これは国語が77点という高すぎる平均のために引き上げられていた数字であり、仮に国語が60点台後半の(岐阜県にとっては)普通の平均なら、298点以下の平均というのもあり得た。
あの年は国語の易しさばかりがクローズアップされたが、それを除けば難しい入試だったのだ。
今年の数学が平成29年ほど難しいかと言われたらそうでもないだろうと私は思うが、その代わり理科は平成29年よりは難しいだろう。
国語の平均が77点にもなることはないだろうと思う。
298点と言えば平成23年の一般選抜以来の難しさということになるが、果たしてどうなるだろう。
 
いずれにしろ、あれこれ議論したところで本当の平均が出るのは9月だ。
問題の難易度が変われば合否のラインも変わるが、今は誰が何を言っても推測でしかない。
このあたりについてはまた「予想は難しい」記事を今年も書こうかなと思う。
今年から発表までの期間が(昨年から既に計画されていた「インフル対応追検査」実施の影響で)1日延びた上、新型コロナウイルス問題のため「ねずみの国」やら「宇宙的映画撮影所」といった彼らが行きたいような(そして実際に去年までの卒業生はこの期間に結構行っていた)施設が軒並み休業中という中、受験生たちが解放感に浸れないのはあまりにも可哀想だ。
 
せめて余計な心配もなく来週水曜日まで過ごして欲しい。
世間の中学生もそうだろうが、ウチの塾生たちは本当によく頑張ってきたのだから。
これで来週水曜日まで落ち着けないというのは酷だ。
ウチの塾生たちには「大丈夫。安心して寝なさい」と言いたい。
そんなことを思いながら床に就く。
今はとにかく眠いのだ。
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