2019年3月7日を終えて(2)

午後3時、塾に戻る。
 
例年通り、今年も「入試が終わったら塾に寄って、手応えなど教えてください」と塾生たちには伝えてある。
ただし、これもまた例年通り、「できたらで結構です」「来たい人は来てください」とも伝えてある。
来なかった生徒には後で電話する、これも例年通りの対応だ。
それで去年は全員が揃った。
記念撮影もした。
今年は…去年とは違うかもしれないなと予想していた。
 
去年の子たちは、多くが以前からお互いを知っていて、男女の枠をこえ、仲間意識の強い一個の集団だったが、今年はそうではない。
いくつかのクラスタに分かれているように見えた。
そういう意味ではまとまりのない集団だ(ったと思う)。
でも、そのバラバラの集団が実によく学習してくれた。
こういう集団はこういう集団で自分は好きだ。
野武士野球と言われた、子どもの頃のドラゴンズのようだ。
それぞれがそれぞれの目標に向かう。
でも授業となれば集中した一体感がある。
強い「個」が集まっている感じだ。
 
しかし、得てしてこういう集団は団体行動が苦手だ。
それぞれの「世界」を持っている個性的な子たちが「ご自由にお越しください」と言われて、果たして何人集まるか。
 
そんなことをあれこれ考えながら教室の明かりをつける。
来塾する人数が少なければ対座してのんびり話でもするかと、懇談形式に机が並んでいる小教室のエアコンのスイッチだけをまず入れてみたが、ひょっとして想定以上来たらと中教室のエアコンもつけておく。(大教室は2階だから、こういう日は使わない)
 
次は買い物だ。
去年まで同様、近所のスーパーにて飲み物とお菓子を購入。
昨年の経験から、ジュースを多めに、お茶を少なめに。
お菓子は甘いものを中心に揃える。
今年の生徒たちは女子優勢なので、これで間違いはないだろう。
全員来てもいいように多めに買っておいた。
もし余ったら、やや虚しいが、自分で少しずつ食べることにする。
 
結果、持って行った袋に収まりきらないくらいの買い物をして、歩いて塾に戻ったのだった。
 
想定される到着時刻まで少し時間があったので、軽く掃除をしていたら、予想より早く一番乗りの生徒がやってきた。
4時少し前だっただろうか。
彼女のお姉さんは一昨年の卒業生だ。
そういうわけで、ここに来ることは既定路線だったかもしれない。
手応えを訊く。
まあまあできたと笑顔だった。
ほっとする。
 
その後、続々と生徒たちが現れ、気がつけば、独自検査を受けている子たちと岐阜まで行っている子を除き、全員が揃っていた。
 
中教室を開けておいてよかった。
小教室では、当然入らない。
 
手応えを訊いてみる。
 
英語はウチの生徒にとっては、やや易しめだったようだ。
英語がそこそこできる生徒から、かなり得意な生徒まで、一様に高得点がとれそうな雰囲気だ。
といって、苦手な生徒もがんがんとれたかというと、そうでもない感じなので、全体の点数分布はいつもの英語の傾向通り、つまり平均はあまり変わらないかもしれない。
多少解きやすくなったことで得をする層と、多少解きやすくなったからといっても大して変わらない層がある。
このあたり、いずれ出るだろう県教委発表の公式結果・分析に注目したい(半年後までの備忘としてここに記しておく)。
そういえば、東高を受検した生徒のうちの2人が、試験中に“スラッシュリーディング”を派手にやっているのを、彼女たちの間の席に座っていたウチの塾生でない子が驚いていたとか。
試験中にシャッ、シャッっと線を引く音が絶えず両側から聞こえてきて「何をそんなに書くことがあるの?」という反応だったそうだ。
賢学塾では、入試対策だけでなく、普段の授業から、しつこいくらいにスラッシュリーディングで文を読んできたからね。
もちろん、直前演習でも全問題にスラッシュを入れて解説してきた。
本番でもそれを忠実に実践した彼女たちが、英語で結果を出したなら、これもまたうれしい。
といって、中学校の教科書にもちゃんと載ってるスラッシュリーディング、そんな珍しいものでもないと思うけど、世間ではあまり普及していないのかな?
 
次に数学の問題を見たが、ここ数年の中では割と易しそうな並びに思えた。
図形の問題を最後まで解けたという北高受検生の一人が、数字の写し間違いをしてしまったと問題を見ながら悔しがっていた。
その後ろで、日頃、何かと心配性で塾内ではおなじみの東高受検生の一人が、「先生のいうとおり、同じ角にとにかく印をつけていったら、証明も分かりました」と報告してくれた。
根が単純なので、こういうのはうれしい。
証明もひねった問題では無かった。
数年前にあった、意地の悪い罠を仕掛けたような問題でなくて本当によかった。
書けたという子が多かったが、そんな中で一人だけ、証明が全く書けず、というか勘違いから全然違うことを書いていて途中で行き詰まり、数学の時間中からパニックになったという子がいた。
そういう子もいる。
それが入試だ。
本人曰く、それで数学はぼろぼろになったというが、英語では気持ちを切り替えて挽回し、あまり間違えたところがなかった模様。
そういう気持ちの切り替え、大事だ。
これも彼女たちには何度も言ってきたことではあるが、本番で実践するのは簡単では無い。
たくましい受検生じゃないか。
そんな自分に大いに胸を張ってほしい。
 
数学の問題をさらに見る。
2次関数と確率、連立方程式、そして相似の証明。
予想していた通りだ。
でもまあ、ここまでは、ウチでいう「賢者の石」に類するような入試問題集を持って学習していれば、受検生本人でもたやすく予想できそうな話ではある。
 
2次関数については、本番模擬演習で文章題をやり、その一つ前の演習でグラフを使った問題を取り扱った。
岐阜県はかつて、グラフを使った応用問題を意識的に避けてきたように思えたが、数年前にそれは“解禁”されている。
そういうこともあって、今年はグラフを使ってきそうだと感じ、直前演習での取り扱いは、ずっと文章問題と両睨み、つまりほぼ半々に出題していたが、果たしてその「保険」が有効に機能したようだ。
もっとも、塾で解いた問題はもっと難しくボリュームもある。
つまりは入試問題で言うところの大問4を埋めるような内容が多かった。
2次関数でグラフの問題を出題するときには今後も大問2(や3)で軽く易しめに扱うだけにするのか(前回もそうだったから)、それとも大問4に昇格?させて他県のように難しい内容まで出すのか(こうなると新しい展開)、今後の変化に注目していきたい。
 
国語の問題。
文法が多かった以外は、大きく変わったところは無い。
生徒たちからも、特に難しかったという反応はなかった。
難易度も例年並みか、と書いてみたが、一昨年が易しすぎたせいで、例年並みとはどのレベルか、ちょっと分からなくなっている。
いずれにしろ、もともと岐阜県の国語は、よそと比べたら結構易しい。
今年もその流れは引き継いでいるように思えた。
 
理科。
一番予想が立てやすい教科だから、こちらも当てにいこうといつも力が入るし、それなりにあてた年も多い。
今年も植物の蒸散と天気に関しては本番模擬演習で出した通りとなり、ほぼズバリ当たっていた。
また、化学分野で分解が出ることもほぼ予想通りとなったので(内容は少し違ったが)、小問集合の総合問題である大問1を除き、残りの大問4つのうちの3つをだいたいあてたようなものだ。
それだけ見れば、かなり満足のいく結果だったが、物理分野でばねを使ってきたのはちょっと意外だった。
また、化学分野でも細かく言えば、炭酸水素ナトリウムの化学反応式は、直前演習ではほぼノーマークだった。
ただ、これに関しては、こちらの心配とは裏腹に書けた生徒が多かったようでほっとしている。
自分が思うよりもずっと、彼らはたくましくなっているのだ。
理科に関してさらに言えば、“隠し球”的に指摘しておいた、ひょっとしたら出るかもと指摘した内容を外してしまったので(去年までは入試前日のこういう指摘が割とヒットしていた)、個人的にはやや敗北感も漂う。
そんな中、「でも蒸散出ましたね」と言ってくれた北高受検生の一人の言葉には素直に救われた思いだった。
朝の「目の前無視スルー」はこれで帳消しとしよう(もちろん冗談だ)。
 
冗談ついでに、ここで少しだけ本題から逸れて朝の応援に関する顛末を書くと、彼女曰く、やはり自分には全く気付かなかったとのこと。
あのときは落胆したと書いたが、考えてみれば緊張しながら会場入りしている受検生親子なのだ。
それが当然かもしれない。
で、彼女は後から来た他の生徒と合流してから「先生が来ている」と聞かされ「先生、来るの遅かったのかな」(おいおい)と思っていたそうだ。
しかし、私が正門から横に移動し、奥に向かって幟を掲げたときは、それを確認できたそうで、これは去年に続いて幟の効果抜群といったところか。
幟を作って本当によかった。
来年も持っていく(まるで幟業者の宣伝のようになってきた)。
なお、行き先はもちろん未定だ。
 
閑話休題。
入試問題の話に戻す。
社会の問題は相変わらずの詰め込み感だ。
6ページに入らないからとといって説明文のフォントを小さくするのは、ユニバーサルデザインが言われる昨今の流れからして、どうなのだろう。
全く納得がいかない。
他の文系教科、つまり英語も国語も7ページなのである。
ここ数年、同じことを書いているが、やはり社会も7ページ化は必至なのではないだろうか。
 
問題の傾向そのものは例年通りだが、塾の本番模擬演習で東北地方の問題を出していたので、実際に出たのが北海道というのが、何とも言えない悔しさだった。
まるで宝くじの一等賞の番号と1桁だけ数字が違う外れくじを握りしめている人のような心境だ。
全く的外れのほうが、まだすっきりするのだ。
それから、出題者たちが海流と季節風のネタが好きなんだなというのもよく分かった。
実は先日、「中2生」に対して、道東の霧について時間をかけて熱く語っていた自分は、これもまた、PKでゴールの「枠外」に目の覚めるようなシュートを放ったサッカー選手のような心境になった。
 
他方、本番模擬演習で尾形光琳をきっちり説明しておいたことについては、塾生の誰からも感謝されなかったが、自分一人で喜んでいた。
今年一番のドンピシャはこれかもしれない。
何と言っても入試前日に解説授業しているのである。
 
さらに言えば、同じく本番模擬演習の解説で、幻の東京オリンピック(1940)の話を敢えてしていたことも、彼らから何の指摘も無かったが、一人で驚くとともに、勝手に満足している。
言っておくものである。
問題の解答には直接関係ないが、何らかのヒントにはなったかもしれない。
社会は今年も少しだけ(苦手な生徒にとっては)難しくなった気がするので、多少は貢献できただろうか。
 
さて、5時半頃になり、そろそろ時間だからと一人の生徒が帰り支度を始めたので、
例年のことだし、せっかくの機会だからと、慌ててカメラを用意し、
とりあえず来ている子たちだけで記念写真を撮ることにした。
と、ちょうどそのとき、岐阜から一人の受験生が戻ってくる。
いいタイミングだ。
 
彼女も入れて、写真を撮る。
去年までもそうだったが、今年も実にいい笑顔だ。
というか、スマホで気軽に写真が撮れる時代に育った今どきの子たちは、写真撮影というものに慣れているんだなということを改めて感じた。
場所決めの手際もよいし、最初から私が入るスペースも相談して確保している。
いやいや、最初は君たちだけで撮り、その後で私も入るからと告げる。
夜、撮った写真をPCで見てみたら、塾生たちの屈託のない笑顔と比べて、自分の表情のぎこちないこと。
これでは写真に不慣れな明治初期の人たちと大して変わらない。
あの頃と違って今は一瞬で写真が撮れるのだから、むしろ私のほうがひどいか。
来年からは塾生だけの写真で終えておこうかとさえ、思ってしまったのだった。
 
写真撮影後、帰りたい子から流れ解散としたが、まだ話し込んでいる生徒も結構いた。
邪魔にならないよう、一人、事務室でまったりする。
ときどき「これは正解か」と尋ねてくる子の相手をしながら。
 
そうこうするうちに6時になったので、残って話していた生徒たちにも「お開きにしようか」と提案し、
お迎えをお願いする電話をかけてもらっていたところ、
そこへようやく独自検査を終えた生徒たちが、相次いで飛び込んできた。
聞けば、彼らの受検番号がいずれもかなり若い番号だったことには何の意味も無く、
独自検査の順番はランダムだったとのこと。
結果、2時間も待たされた子もいて、この時間になったと。
何ともお疲れさまの話であった。
 
疲れきっていたに違いないだろうに、それでも塾に駆けつけてくれた子たち。
手応えを訊けば、これまたまずまずの出来だったようだ。
考えればこの子たちは独自検査こそ受けたが、それはそれぞれのスポーツを
ここまで頑張ってきた、そして高校からもそれを頑張るつもりだからであって、
仮に独自検査がなくても十分合格できる力は持っている。
つまりここまで勉強との両立を果たしてきたのだ。
そういう子たちが学力検査でも力を出せたようなのは、とてもうれしかった。
そして、この賢学塾が、運動と勉強の両方を頑張りたい子に決して冷たい塾ではないことを彼らは証明してくれた。
両立はきつかっただろうが、本当によく頑張ってくれたと思う。
 
彼らと話している間に、さきほど電話をかけていた他の生徒たちにお迎えの車が次々とやって来て、賑やかに帰っていった。
賑やかに、と書いたのは、これまでの日常とは異なり、クラスタの壁を越えて、お互いバイバイと言いながら明るく送り出していたからだ。
みんなで写真を撮るという行為が写真を撮ること以上の効果をもたらすことは去年も実感していたが、果たして今年もそうなったのだった。
 
そんな写真撮影には間に合わなかった最後の2人。
疲れた身体でせっかくやってきて彼らだけ写真なしは不憫だし、
せっかく来てくれた子たちの写真が残らないのも、こちらだってあまりに寂しいので、
彼ら2人と私とで、改めて写真を撮ることにする。
帰り際、そのうちの一人から、「5年間ありがとうございました」と。
そうだった、彼がこの学年で最初の生徒だったのだ。
本当によく通い続けてくれたものだ。
彼の場合、彼が先に入塾して後から中学生のお兄さんが入ってきたという結構珍しいケースだった。
高校で活躍するようになったらきっと見に行くから、そう約束して彼を送り出した。
 
 
 
それにしても、最後の最後までこの学年には良い方向にばかり裏切られてきた。
正直なところ、今日も全員が来てくれるとは思わなかった。
びっくりするくらい成績を伸ばした子も何人かいたし、振り返れば志望校だって、春先と比べたら、東→北、南→東という具合により難しい方向に変えた生徒が何人もいたのだった。
(なお、これらの進路変更に関しては、自分は全く関与していない。全て本人たちの判断である)
逆に、難しいからという理由で諦めて志望校を変えた生徒は皆無だった。
それはひとえに彼ら第22期生一人ひとりの頑張りのおかげだろう。
この学年は、成績のよい生徒がかたまって切磋琢磨していた世代や、
2階の教室を満席にして賑わった世代とは異なり、
静かで目立たない世代かなと思っていたが、
終わってみれば大化けしてくれた感がある。
歴代の卒業生の中でも指折りのすばらしさだ。
何といっても「個」の強さが光った学年だった。
教えている側にとっては、本当に幸せな一年間だった。
高校に入ってからも易きに流れることなく、ここぞというところで大いに頑張ってくれるに違いない。
そう確信している。
 
ただ、その前に、明日からしばらくは羽をのばす期間だ。
発表は来週木曜日。
今年もこの休みを利用して、“鼠の国”や“普遍的映画撮影所・日本”に行く生徒が結構いるとのこと。
どこにも行かない生徒も含め、この期間は何も考えず健康や安全に気をつけてのんびりと休んでほしい。
正月明け以来、ここまでほぼ無休で頑張ってきたのだから。
 
 
 
家に帰る。
食事をとりながら、例年通り解答速報の録画を見る。
彼らの予想でも今年は易しくなったという印象のようだ。
5教科の合計平均点は6点上がるという。
もう少し上がっていてもおかしくない気はしたが、公共の電波に乗せてあまり大胆に振った予想もしにくいだろう。
上がっているという傾向には私もおおむね同意だ。
ただし、こればかりは分からない。
昨年だって解答速報では下がると予想し、また自分もそうなるだろうと感じたのだったが、
実際には5教科合計の平均に変化は無かった。
「予想は難しい」という記事を今年も書くかどうかはまだ決めていないが、予想とは、その程度のものである。
予想して流す側も、あまり深刻に捉えられるのは本意ではないだろう。
受検生のみなさんはあまり気にしないでほしい。
 
塾のサイトの入試情報のところにある「入試平均点」のページに、放送された今年の予想平均を入力した表を上げて、長い一日は終わった。