2002年の広告掲載の文章。開塾してまだ5年という頃だなあ。

ブログを書く暇がないので(苦笑。書く暇がないなら書かなければいいじゃない?と自分自身に突っ込みたくなる)先日あるきっかけで掘り起こすことになった2002年夏の広告に載せた文章を掲載しておこう。
とにかく今は限られた時間を冬期のことに振り向けたいのだ。

載せるだけでなく時代背景を説明しておかないといけない。
2002年と言えばゆとり教育が極みに達した頃だろうか。
端的な例を挙げれば、今よりもだいぶん教科書が薄かった。
やがてそれが問題とされるようになる。
そして揺り戻しがあって今日に至る。
今となっては当時を知る資料としてあの頃の教科書をとっておけばよかったぐらいたが、私は別に教育評論家ではないので。

セルフ引用(自分が書いた文章)だが何となく緑色にしておいた(このブログでは引用部分はいつも緑色にしているのはいつも読んでいる人ならご存じの通り)


誰もが「知」を求めたあの時代には、もう戻ることはないでしょうが・・・。

 今春(注:2002年春)、かねてから行きたいと思っておりました長野県松本市の旧開智学校を訪れました。この旧開智学校は、明治維新の際の学制発布後に建てられた、当時としては斬新な建築の小学校です。建物自体が貴重な文化財となっていますが、中は現在資料館として、近世以降の教育の歴史を見て取れるように展示がしてあり、大変興味深いものになっています。年輩の方にとっては懐かしいものもあるかもしれません。

さて、その中にあって、私が最も興味をそそられたのは、「子守教育所」という名の不思議な教室に関する資料でした。

明治時代、小学校教育(年数は度重なる制度改革で時々により変化)は、義務教育とされていたが、実際にはこの義務教育ですら就学できない子どもがたくさんいた。現代のように豊かな社会ではなかった上、「義務教育はこれを無償とする」と憲法が謳うずっと以前のことだったから、家庭の経済事情から通えない子どもがいても何の不思議もない。貧しい家庭の子は幼いうちに奉公に出されることも多く、幼い奉公人たちの仕事は「子守」であったという。

開智学校の周辺には、奉公人の身で学校に通えない子どもたちが集まり、中の学校の様子をうらやましそうに眺め、そのうち歌や遊戯、はたまた授業のまねごとまで始めるようになった。それを見た開智学校の教員たちが「放課後、彼女たちのために授業をしてあげられないか」と発案して始めたのが「子守教育所」、つまり子守の奉公をしていた少女たちのための教室だったのだ。当時の写真には、彼女たちがみな、それぞれ奉公する家の子どもをおんぶしたり、横に座らせたりしながら教室で学ぶ様子が写されている。当然「奉公優先」だったから、記録にも「全員がそろうことはまれで、一人ひとり進度もバラバラだったので、個別に指導していた」とある。教える側も学ぶ側も学習に専念できなかったであろう環境では、多くの困難を伴ったに違いない。それを乗り越え、一定の年限を学んだ生徒たちには、「子守教育所」として卒業式を行い、卒業証書も与えていた。卒業生の答辞が残されているが、どうにか覚えた字を使って懸命に文章を書いた様子が見て取れる。読んでみると「本来なら学校に行けるはずもない私たちが、ご主人様や先生たちのおかげで勉強をさせてもらえ、本当に幸せです」という旨が記してあった。彼女たちは苦しい奉公生活の中、周りに遠慮しながらも必死の思いで、そしておそらく喜んで「子守教育所」に通ったことであろう。

私は当時のそうした少女たちに思いをはせ、その場で涙してしまいました。当たり前のように学校に行ける現代が何と幸せなことでしょう。時代が違うと言われてしまえばそれまでですが、昨今の「勉強なんて別にしなくたっていい」とでも言いたげな風潮の中にあって、改めて「学ぶ」ことの重要性をかみしめた思いでした。彼女たちの苦労の上に、私たちのこの恵まれた教育環境がある。私たち「塾」が現代の教育の一翼を担っているかどうかは別として、私は彼女たちの思いを胸に刻み、最後の最後まで「勉強を軽んじる傾向」と戦い、学びの灯を守っていきたい。私はそう心に誓い、旧開智学校を後にしました。

外に出ると、すぐ前に建つ「開智」の名を引き継いだ小学校から、子どもたちの歓声が聞こえてきました。


開智学校、もうだいぶん長いこと行っていないので今この展示があるかどうかは知らない。
いま見に行って「なかった」といわれても困る(20年以上も前の話だ)。

それにしても広告にこんな長文を載せて何人の人が読んだのだろう。
このときの思いは今ももちろんそのままだ。
今行って仮に展示がまだ残っていたら、私はまたその前で「涙を落としはべりぬ」とここに書くだろう。
久しぶりに行ってみたい気もするが行って展示が消えていたら半端なくがっかりするだろうから、やめておいたほうがいいのかもしれないと思ったり。

    


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